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クリニックのカスハラ対策
正当な苦情との線引きと、院内で決めること

2026年10月20日公開

目次

  1. 2026年10月から、カスハラ対策は事業主の義務に何が義務になり、何をすればよいのか。
  2. カスハラと、正当な苦情の線引き苦情のすべてがカスハラではありません。
  3. 医療機関ならではの注意:応招義務との関係診療をお断りできるのはどんなときか。
  4. 院内で決めておく5つのこと指針の措置を、クリニックの規模に置き換えます。
  5. 美容医療で起きやすい場面と、損害賠償の請求に至りそうなとき苦情が請求に変わる前に、備えておくこと。
  6. よくある質問小さなクリニックも対象? SNSに書くと言われたら?
  • 2026年10月1日から、職員を雇うクリニックにもカスハラ対策が義務になりました
  • 患者さんの苦情のすべてがカスハラではありません。内容と言い方・手段の両面から判断します
  • 院内で「方針」「相談先」「対応のルール」を決め、職員を一人で対応させないことが第一歩です

2026年10月1日から、患者さんなど「顧客等」からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント。以下「カスハラ」)から職員を守るための対策が、職員を雇う事業主の義務になりました。クリニックや医療法人も例外ではありません。

この記事では、厚生労働省の指針をもとに、カスハラと正当な苦情の線引き、医療機関ならではの注意点、院内で決めておくことを、院長先生向けに整理します。

2026年10月から、カスハラ対策は事業主の義務に

改正された労働施策総合推進法により、2026年10月1日から、事業主はカスハラを防ぐために雇用管理上必要な措置を講じることが義務になりました。具体的な内容は、厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)に定められています。

指針は、カスハラをする「顧客等」の例として、病院などの施設の利用者も挙げています。看護師や受付のスタッフを雇っているクリニックは、院長先生が事業主として対策を整えておく必要があります。

事業主が講ずべき措置は、大きく次の5つです。

  1. 方針を明確にし、職員に周知・啓発する(カスハラにどう対処するかの内容も含む)
  2. 相談に応じ、適切に対応するための体制を整える
  3. 起きたあとに、迅速かつ適切に対応する
  4. 特に悪質な場合への対処を決めておく(抑止のための措置)
  5. 相談した職員のプライバシーを守り、相談を理由に不利益な扱いをしない

あわせて、患者さんを含む顧客等にも、カスハラへの関心と理解を深め、職員への言動に必要な注意を払う「責務」が示されました。それぞれの措置をクリニックでどう形にするかは、「院内で決めておく5つのこと」で整理します。

カスハラと、正当な苦情の線引き

指針は、カスハラを次の3つがそろうものとしています。

  1. 顧客等の言動であること
  2. 業務の性質などに照らして、社会通念上許される範囲を超えていること
  3. それによって、職員の就業環境が害されること

まず押さえておきたいのは、苦情のすべてがカスハラではないということです。説明が分かりにくかった、待ち時間が長かった、といった申し入れは、社会通念上許される範囲であれば「正当な申し入れ」です。真摯に受け止め、説明や運営の改善につなげるべきものです。

カスハラに当たるかどうかは、要求の内容と、言い方や手段(手段・態様)の両面から、目的や頻度なども含めて総合的に判断します。指針が挙げる例は次のとおりです(これだけに限られるものではありません)。

※表は横にスクロールできます

区分指針が挙げる例クリニックで起こりうる場面(当社が想定した例)
要求の内容理由のない要求、契約で想定するサービスを著しく超える要求、対応が著しく困難な要求、サービスと関係のない不当な損害賠償の要求診療と関係のない慰謝料を求める、受けた施術とは別の施術を無料で求め続ける
身体的な攻撃殴る・蹴る・叩く、物を投げつける、つばを吐きかける受付で物を投げる
精神的な攻撃SNSなどに悪評を投稿することをほのめかして脅す、職員のプライバシーに関わる情報をSNSなどに投稿する、土下座の強要、盗撮や無断での撮影「口コミに書く」と言って要求を通そうとする、職員を無断で撮影する
威圧的な言動大声で職員や周りを威圧する待合室で怒鳴り続ける
継続的・執拗な言動同じ質問の執拗な繰り返し、同様のメールの執拗な送付同じ内容の電話を何度もかけてくる
拘束的な言動不退去・居座り、長時間の電話での拘束診療時間が終わっても院内に居座る

※「指針が挙げる例」は厚生労働省の指針の要約です。右の列は、クリニックの場面に置き換えた当社の例で、指針に書かれているものではありません。

医療機関ならではの注意:応招義務との関係

医師には、診療を求められたときに正当な事由なく拒んではならない応招義務があります(医師法第19条)。そのため、「カスハラだから診療をお断りする」と考える前に、応招義務との関係を押さえておく必要があります。

厚生労働省の通知(令和元年12月25日 医政発1225第4号)は、診療の中で生じた迷惑行為によって、診療の基礎となる信頼関係が失われている場合には、新たな診療を行わないことが正当化されるとしています。例として、診療内容そのものと関係のないクレームを繰り返し続けることが挙げられています。

一方で、緊急の対応が必要な患者さんについては扱いが厳しくなります。診療時間内であれば、診療をしないことが正当化されるのは、事実上診療が不可能といえる場合に限られます。指針も、サービスが止まると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が出る場合があることに留意するよう求めています。

診療をお断りするかどうかは、緊急性を確かめたうえで院長先生が判断し、迷うときは弁護士などの専門家に相談しましょう。受付や看護師に判断を任せないことが、職員を守ることにもつながります。

院内で決めておく5つのこと

指針の5つの措置を、クリニックの規模で無理なく形にした例です。大きな仕組みを作るより、まず「方針」「相談先」「対応のルール」を決めて、職員に伝えることから始めましょう。

※表は横にスクロールできます

指針の措置クリニックでの形(当社の例)
1. 方針の明確化と周知「正当なご意見には誠実に対応し、カスハラには毅然と対応して職員を守る」という方針を決め、職員に伝える。対応のルール(一人で対応しない、院長・事務長にすぐ報告する、やり取りを記録する、必要に応じて録音・録画する、暴行や脅迫は警察へ・法的な対応は弁護士へ相談する)もあわせて決めて伝える。院内の掲示やホームページで、患者さんにも方針を示す
2. 相談の体制相談先(院長・事務長、または外部の窓口)を決めて職員に伝える。「カスハラかどうか迷う」段階でも相談してよいと伝えておく
3. 起きたあとの対応事実を早く正確に確かめる。被害を受けた職員を相手から離し、休ませるなどの配慮をする。説明の仕方や案内の掲示に改善できる点がないかも振り返る
4. 悪質な場合への備え脅しや執拗な要求を繰り返すなど、特に悪質な場合の対応(対応を打ち切る基準、警察・弁護士への相談)を先に決め、実際に動ける体制にしておく
5. 職員を守るための約束相談した職員のプライバシーを守る。相談したことを理由に不利益な扱いをしないと決め、職員に伝える

記録は、日時・相手・やり取りの内容・対応した職員を残しておくと、あとで事実を確かめるときや、弁護士に相談するときに役立ちます。

美容医療で起きやすい場面と、損害賠償の請求に至りそうなとき

美容医療は、仕上がりへの期待が大きい分、仕上がりへの不満、返金の要求、口コミやSNSへの書き込みのほのめかしなどが起きやすい分野です。

大切なのは、正当な苦情とカスハラを分けて考えることです。施術の説明や仕上がりについての申し入れには、誠実に向き合います。そのうえで、脅しや長時間の居座りなど、指針が例に挙げる言動には院内のルールで対応します。この2つを分けておくことが、患者さんへの誠実な対応と、職員を守ることの両方につながります。

苦情が損害賠償の請求に至りそうなときは、早めに弁護士へ相談しましょう。そのときの費用の備えとして、美容医療の賠償責任保険に付いている弁護士費用保険があります。

美容医療賠償責任保険の弁護士費用保険でできること

  • 法律上の賠償責任が生じない場合も含めて、損害賠償の請求を受けたときの弁護士費用を補償します。
  • 損害賠償の請求に至りそうな状況を知ったときに、引受保険会社へ書面で知らせると、その時点で請求があったものとして扱われます。賠償責任があるかどうか分からない段階から使えます。
  • 弁護士費用は、引受保険会社の同意を得て支払ったものが対象です。弁護士に依頼する前に、引受保険会社へご連絡ください。
  • カスハラそのもの(職員への暴言など)を補償する保険ではありません。補償の内容と条件は、重要事項説明書・約款でご確認ください。

よくある質問

小さなクリニックも対象ですか?

対象は職員を雇っている事業主で、クリニックや医療法人も含まれます。厚生労働省の資料では、事業の規模による例外は示されていません。職員を雇っているなら、まず方針と相談先から決めておきましょう。

患者さんからの苦情は、すべてカスハラになりますか?

いいえ。社会通念上許される範囲の申し入れは正当な申し入れで、カスハラには当たりません。要求の内容と、言い方や手段の両面から、目的や頻度なども含めて判断します。

「SNSに悪評を書く」と言われたら、どうすればよいですか?

厚生労働省の指針は、SNSなどに悪評を投稿することをほのめかして脅す行為を、精神的な攻撃の例に挙げています。一人で対応せず、やり取りを記録して院長に報告しましょう。実際に投稿された場合の削除の求めなどは、弁護士に相談してください。

まとめ

  • 2026年10月から、カスハラ対策は職員を雇うクリニックの義務になりました。
  • 苦情のすべてがカスハラではありません。要求の内容と、言い方・手段の両面から判断します。
  • 診療をお断りするかどうかは応招義務との関係があるため、院長先生が判断し、迷うときは専門家に相談します。
  • 院内で方針・相談先・対応のルールを決め、職員を一人で対応させないことが第一歩です。
  • 美容医療では、苦情が損害賠償の請求に至りそうな場面への備えも考えておきましょう。

出典

※本記事は2026年10月時点の情報をもとにしています。個別のケースの法的な判断は、弁護士などの専門家にご相談ください。

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執筆者情報

平野 慎二

株式会社Watrayコンサルティング代表取締役平野慎二

株式会社Watrayコンサルティング 代表取締役

資格:AFP/証券外務員1種
1991年 ジブラルタ生命保険株式会社入社
2016年 株式会社Watrayコンサルティング創業
2018年 一般社団法人日本未来設計研究所創業参画

実績:ジブラルタ生命(旧セゾン生命)に入社の翌年、当時最年少で社長賞受賞。入社3年で年収1000万円達成。1993年から10年連続社長杯を受賞するトップ営業マンとなる。入社から25年間、現場、マネージャー職を経験。その後独立してWatrayコンサルティングを創業。

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