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「働けなくなったとき」は
開業準備の"盲点"になりやすい

開業医が開業前に整えるべき保険|就業不能リスクは開業準備の"盲点"

開業準備でやることは山ほどあります。物件、融資、内装、機器、スタッフ採用――。

その中で、「自分が働けなくなったら、この事業と生活はどうなるか」という視点は、最後まで検討リストに上がってこないことが少なくありません。

なぜ開業準備で「保険」は後回しになりやすいのか

開業準備には、頼れる専門家が何人もつきます。開業コンサルタントは事業計画と開業実務を、税理士は資金繰りと税務を、銀行は融資を。それぞれが自分の専門領域できちんと支えてくれます。

ところが、「働けなくなったときの収入の備え」は、この誰の主担当にも入りにくいという構造があります。コンサルは保険の専門家ではなく、税理士の役割は税務であって保障設計ではない。銀行は融資を通すことが仕事で、借り手が倒れた後の生活設計まで踏み込むわけではありません。結果として、保険はどの担当者のスコープの"狭間"に落ちてしまいがちです。

意識して外しているわけではなく、誰の議題にも上らないまま開業日を迎えてしまう――これが起こりやすい。開業準備そのものが悪いのではなく、担当が分かれている構造上の盲点だと捉えるのが正確です。

開業医の「働けない期間」は、勤務医時代と何が違うのか

同じ「病気やケガで働けない」でも、勤務医と開業医とでは、家計と事業に与える影響がまったく違います。

勤務医の場合、一定期間は組織の仕組みに支えられます。有給や休職の制度があり、公的医療保険からの給付が受けられる立場でもあります。収入がすぐにゼロになるわけではなく、復帰までの時間をある程度確保できます。

開業医の場合、事情が変わります。自分が診療できないと、その間の売上は大きく落ち込む一方で、支払いは止まってくれません。次のような固定費が、働けない間も続きます。

働けない間も続く主な固定費

  • 開業時の借入(融資)の返済
  • テナントの賃料、医療機器のリース料
  • 雇用したスタッフの人件費

つまり開業医の就業不能は、「収入が減る」だけでなく「事業の固定費と借入返済が同時にのしかかる」という二重の負担になりやすい。勤務医時代には存在しなかった構造です。

なお、公的な給付(傷病手当金など)にも、高収入の医師ほど収入に対する補償の割合が小さくなりやすい、といった知っておきたい論点があります。ここは備え全体の"選び方"に関わるため、体系的にはこちらのページで整理しています。

開業前と開業後で変わる、「必要な備えの大きさ」の考え方

備えを考えるとき、多くの方が「いくらの保障が必要なのか」で手が止まります。ここは、開業前と開業後で必要額の考え方が変わると理解しておくと整理しやすくなります。

開業"前"は、融資額や毎月の固定費がまだ確定していないことが多く、必要な保障の全体像も定まりきりません。逆に開業"後"は、返済額・賃料・人件費といった固定費が具体的な数字として見えてきます。

必要な備えの大きさを考える目安(合計で考える)

  • 毎月の生活費(家族の生活を含む)
  • 事業の固定費(賃料・リース・人件費など)
  • 借入の返済額

これらが「働けない間も出ていく」お金の総量です。開業計画の数字が固まるほど必要額は具体的に見積もれるため、開業前は"考え始める"タイミングとして最適で、計画が固まる過程で保障の設計も一緒に詰めていくのが理にかなっています。

ただし適正額は人によって大きく異なります。開業科目、地域、融資額、家族構成、既存の保険の有無――条件が違えば必要な備えも変わります。一般論だけで自分の適正額を出すのは難しいので、開業計画に当てはめて具体的に相談してしまうのが早道です。

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※特定商品の勧誘ではなく、開業状況に合わせて考え方を一緒に整理する場です。

開業医の「働けないリスク」への備えには、どんな選択肢があるか

備えの必要性が見えてきたら、次は「どう備えるか」です。選択肢は大きく、公的な保障と民間の保険に分けて考えると整理しやすくなります。ここでは全体像を俯瞰します。

まず土台になるのが公的保障です。ただし、ここに開業医ならではの注意点があります。勤務医が加入する健康保険には、病気やケガで働けないときに給与の一部を補う「傷病手当金」があります(全国健康保険協会(協会けんぽ))。一方、開業して国民健康保険に移ると、この扱いが変わります。市町村の国民健康保険では傷病手当金は任意給付とされ、条例の制定が必要なため、実施している市町村は現在のところありません(衆議院 質問主意書・答弁書)。医師が加入することの多い医師国民健康保険組合では傷病手当金を設けている組合もありますが(例:大阪府医師国民健康保険組合全国歯科医師国民健康保険組合)、入院時に限られる・支給日数に上限があるなど、被用者保険より限定的なことが少なくありません。

見落とされやすいポイント:勤務医時代にあった公的な下支えは、開業後の加入先(市町村国保か医師国保組合か)によって手厚さが変わります。開業前に、自分が加入する制度の給付内容を確認しておくと安心です。

公的保障で足りない部分を補うのが、民間の保険です。働けない間の収入や事業の固定費を補う保険には、補償の期間や対象の異なるいくつかのタイプがあります。開業医の場合、固定費と返済が長く続くリスクを踏まえると、長期の備えをどう組み込むかが一つの論点になります。

医師向けには、医師・歯科医師を対象とした団体経由で長期の就業不能に備える選択肢もあります。具体的な補償内容やどんな人に向くかは、専門ページで詳しく整理しています。

開業前に「いつ・何を」整えるか(時間軸チェックリスト)

完璧に一度で決める必要はありません。段階に応じて詰めていくのが現実的です。

1開業1〜3年前
  • 「自分が働けなくなったら、事業と生活はどうなるか」を一度考えてみる
  • 勤務医時代の公的保障が、開業後にどう変わるかを把握する
  • 今入っている保険の内容を棚卸しする
2開業直前(融資・固定費が固まる時期)
  • 借入返済・固定費・生活費から、必要な備えの大きさを具体化する
  • 公的保障で足りない部分を、民間の保険でどう補うか検討する
3開業後
  • 固定費や借入の変化、家族構成の変化に合わせて定期的に見直す

開業前は「考え始める」、計画が固まる頃が「具体化する」、開業後は「見直す」――このように時間軸で捉えると、無理なく備えを整えていけます。

よくある質問

Q開業医は、勤務医時代に入った保険をそのまま使えますか?
A使えるものもありますが、見直しが必要になる場合が多いです。開業後は必要な保障額の前提(固定費・借入・公的保障の変化)が勤務医時代と変わるためです。一度、今の内容を棚卸しすることをおすすめします。
Q保険のことは開業コンサルタントに任せておけば大丈夫ですか?
A開業コンサルタントの主な役割は事業計画や開業実務であり、就業不能への備えは必ずしも担当範囲に含まれません。誰の議題にも上がらないまま準備が進むことがあるため、保険は意識して別に検討したほうが安全です。
Q備えは開業前と開業後、どちらで考えるべきですか?
A「考え始め」は開業前が適しています。計画が固まるほど必要額を具体的に見積もれるため、開業前に検討を始め、融資・固定費が確定する頃に具体化するのがスムーズです。
Q開業時のローンに付く保障に入れば、働けないリスクはカバーされますか?
Aローンに付く保障は主に返済そのものを対象とするもので、働けない間の生活費や事業の固定費まで広くカバーするとは限りません。返済の保障と就業不能への備えは分けて考える必要があります。両者の関係はGLTDページで整理しています。
Q団体信用生命保険(団信)の健康告知で通らなかった場合、開業は諦めるべきですか?
A団信は、借入返済中に万が一のことがあった場合にローン残高を保険で相殺する仕組みで、加入には健康状態の告知が必要です。持病や既往歴によって加入が難しいケースもありますが、団信に代わり、借入額を保険金額の目安として民間の生命保険に加入し、その証券を金融機関に提示する対応をとれる場合があります。告知の内容によって対応可能な範囲は異なるため、早めに確認しておくと選択肢を持ちやすくなります。

あわせて読みたい:開業準備の関連コラム

開業時に備えるべきリスクは、就業不能だけではありません。開業準備全体の中での位置づけは、以下もご参照ください。

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本ページは、医師・歯科医師専門の保険代理店「株式会社Watrayコンサルティング」が運営しています。開業前の医師が知っておきたい就業不能リスクについて、特定の商品に偏らず、一般的な情報としてご案内しています。
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執筆・監修

平野 慎二(株式会社Watrayコンサルティング 代表取締役|AFP・証券外務員一種)/後藤 淳子(同 専務取締役|AFP・証券外務員一種・DCプランナー2級)
金融業界での長年の実務経験を持つ、医師・歯科医師専門の保険コンサルタントです。

公開日:2026/7/22 最終更新日:2026/7/22

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